2017
08.01
08.01
久しぶりに紙巻き煙草を懐かしもうといたしましたら、
「さよなら」
と、ドアを内側から閉められたような寂寥を感じましたです。
これが、何年も愛喫していた煙草だろうか…。
他人の味なのでございます。
「いろいろあったのよ、わたしだって」
「たった一週間で?」
「そう一週間で」
すみずみまで知っていたつもりのタバ子の他人の顔。
裏切りの代償なのでございましょう。
「おいおい、ちょっとちょっと。オレたちこれっきりかよ」
「……」
「そーいうこと?」
手を伸ばせばふれることのできる、まだ距離にあるというのに、断ち切られた永遠の距離の暗闇に、私メはうろたえるのでありました。
「…がんばるんだぞぉ」
ふふっ、とお女性は薄く笑い、視線を合わせようとしないのでありました。
そしてドアの閉じられます。
教会の鐘の響きに似た音であります。ピアノの一番低いキイの響きのようでもございます。
そのドアを足で蹴るしぐさをしましたです。足は空を蹴りました。
こういう時は紙巻き煙草が似合うのでありましょう。
それが煙草だろうと、別の何かだろうと、新しく一歩を踏み出そうとすれば、それまでの何かを裏切ることになるのであります。
心に傷を負いつつ、その痛みを笑顔でかくしながら、後悔なんてしないぞと、自分をふるいたたせるわけであるのでありましょう。