2022
04.04

十傳スクールを終え、
「では」
ということで、最初の事務所のあった東北沢で桜見物をすることにいたしました。

予報は、「明日は雨」。
であれば、土曜日の、本日しかないではないか。

桜はたいして好きというワケでもありません。
ましてや九段周辺では、人混みでありましょう。

おそらく、「あそこならイイだろう」。
「あそこ」とは、三軒茶屋から北沢へとつながる暗渠でございます。

桜が満開でございました。
なのに、人はまばら。近所の方々がちらほらと歩いているばかり。

が、思い出せないのでした。

当時はピッチという携帯電話を使っておりまして、飲み屋の22、3歳の馴染のお女性から、深夜に、
「満開だよ、出てこれない?」
の電話がございまして、缶ビールを片手に、真夜中の桜見物をしたはずの小径なのに、なにひとつ思い出せないのでした。
お女性はかなり酔っていましたです。

「弁護士のお客に犯されちゃったよ~」
「え、どこで」
「事務所で。そいつの」
ノコノコついていくからさ。だって、仕方なかったのよ、売掛金払ってくれるというし。なら仕方ないね。

みたいな会話をしながらだったとしても、少しくらいは憶えていてもよさそーなものなのに、すっかり忘れてしまっているのでありました。はじめて歩く径なのでした。

「寄ってっていい?」
風もないのに桜の花びらが、恐ろしいほどに舞っていたと思いますです。
原稿の締め切りがあり、いささか迷惑でもありました。
「トドメ刺してよ、おねがい」

どーやら完全に犯されきっていないよーでした。

『小さな夢を叶える50のレッスン』という単行本の最後の五つの項目は、1Kのちいさな事務所で、オッパイをさらけ出して眠る、彼女を見下ろしつつ、せっせとボードを打ち込みながら完成させたのでございます。

あれから30年近くが経過しております。
彼女も50過ぎ。私メも老いました。そして町も様変わりしていたのでございました。