2023
07.11

新しいスポーツジムに変えて4か月あまり。慣れてきましたら、一人の男が目についてきたのであります。

年齢は50代。やや小太りで坊主頭。ひょっとこ君と名付けました。
このひょっとこ君、お女性のトレーナーに恋しているのであります。

筋トレをしながら視線はお女性トレーナーに釘付け。
ランニングマシンで駆けていても、視線はチラチラ。

お女性トレーナーも、もちろん意識しているわけでして、しかし「キモッ!」と無視するわけにもいかないのか、ひょっとこ君に話しかけられると、笑顔で対応するしかないのであります。

会話しているひょっとこの顔は桃色に上気し、声は上ずり、話が終わりそーになると、マシンからおりて、お女性トレーナーのあとを追いかけるよーについていき無駄話を続けるのでございます。
せつない息づかいまで伝わってまいります。
「吸いつきたい、吸いつきたい」
ひょっと君の気持ちがビリビリと分かってしまうのであります。

さらには、お女性トレーナーがつとめるヨガがはじまると、いそいそとガラス張りの別室に移動して、オババたちに混じって、最前列で妙な形に体を曲げたり捻じったりしているのでございました。

ジムに通っている別の男やジジイが、それに気づかぬはずはなく、痛ましそーにひっとこを見守っては、
「やれやれ」
と顔をなんとなく見合わせるのでございます。

中年男の恋。
完全に魂を抜かれているのでありました。

「刺されなきゃイイんだが…」
誰かがつぶやいておりました。
そして鼻歌で「傷だらけの軽井沢」をうなっておりました。

あれでは恋は成就すまい。
50歳まで、あの男は何を学んできたのだろーか。
果実は熟したならば、自動的に手のひらに落ちてくるものを。

恋の夏はいつ散るのでしょーか。
奪ってみても面白そーだと残酷な気持ちにも襲われるのであります。
私メの楽しみは続きそーであります。