2023
07.26

齢をとってつまらないことは、普通の怪談話に鈍感になってしまうことであります。
子供のときは、幽霊が怖くて階下の便所までのみちのりが怖くてたまりませんでした。

高校になり、好奇心も手伝い、祖父の山寺に友達とつれだって、幽霊採集を試みたことがございます。
昆虫網を片手に、人魂を採集しようと、山の斜面にならぶ墓石にかこまれて夜明けまで蚊に刺されたものです。
しかし、やはり怖くはあったのです。
人魂も幽霊も出ませんでしたが。

でも、オノ家の建て直す前の家は亡霊の棲家だったかもしれません。
誰もいないはずの灯もない暗闇の部屋から、誰かのひそひそ声が聞こえたり、玄関先から草鞋のこすれる音もございました。

もっとも笑えたのは、つい10年前のこと。
老母がオノ家の祖母の悪口を言った時のことでした。
夏の夜のことであります。
開け放した戸から、赤い蛾が旋回しながら、老母のスカートに飛び込んだのであります。
「やんたごと~!」
老母はスカートをほろいました。
しかし、蛾はいちど高く飛び、蛍光灯にぶつかると、こんどは鱗粉をまき散らしながら、ふたたび老母のスカートの中に。
「おばあちゃんだ、おばぁちゃんだ」
私メは手を叩いて喜びました。
「悪口を言ったからだ」

老年に達すると、お化けを笑いの種にしてしまうのであります。

身も凍るよーな怪談話に飢えております。
西洋のホラーでは、ビックリさせられるだけで、ゾッとすることはございません。

情念の恨みがやはりゾッとさせられますです。

と、すると自分の恋愛をかえりみた方が恐ろしいのかも。