2011
08.15

大嫌いなのに気になってしかたのない女がいるように、反吐が出るくらいに腹立たしい店でありながら定期的に顔を出してしまう店が、この「人魚の嘆き」という店でありました。

やっと閉店したということが、毎日新聞に載っておりました。

神楽坂に事務所を移転してからは二度ほどしか足を向けていませんが、神保町にいたころは二週間にいちどほどは顔を出してはバカに高い料金を払っていたのであります。

とうじA氏が編集した新書が200万部売れて、舞い上がったA氏に連れて行ってもらったのが最初でありました。ほとんど彼に「行くべいくべ」とせかされて通っていたものでした。

文壇バーということであります。

ギャッ! と飛び上がりたくなるではありませんか。
店名は谷崎潤一郎の短編小説から借りたものでありましょう。
よく知らない客たちは「人魚の涙」と間違えるのであります。

こういうところにたむろする連中はたいていは二流どころであります。
原稿の話題などをすると狭い店内は聞き耳をたて水を打ったように静まり返るのでありました。

お女給も、有名大学の文学部に席をおいている小生意気な女たちでして、かんぜんにもう出版社に就職しようという魂胆がみえみえでありました。
往復ピンタを唐突に喰らわせたら痛快だろうにとおもうのでありました。
○○出版の部長という名刺に弱いのでありました。
バリバリと洋服を引き裂いてやりたい発作に襲われるのでありました。そして、頭からお小便をぶっかけたらさぞやたのしいだろうと妄想をたくましくしていたものでりました。

私などは鼻でせせら笑われていたものであります。

それが閉店。
なんでも震災のボランティアのためだとか。

止めてけらんせ、といいたい気分でございますです。

しかし、イヤな店がなくなるというのは、お気に入りの店が失われるのと同じくらいに寂しいモノなのでございます。

アーメン。