2011
08.27

何年かぶりの豪雨でありました。昼ころから大東京の空はかき曇り、2時半。篠突く雨が降り出したのであります。

雨の匂いが官能を誘うほどでございました。
女の吐息を肺臓いっぱいに吸い込みたい衝動に襲われるのでございました。
舌の粒子と粒子を重ね、それを左右にずらしあわすようなベーゼを楽しみたい気持ちにさせられる雨なのでありました。

こんな夜は甘い寿司に限るのであります。
辛口の冷酒に、シメはお新香巻きで。

神田へと向かったのでございます。
らっしゃい!
雨を避けるために、駅から近い、はじめての店を選んだにもかかわらず、店の人は快く私メを迎えてくれたのでございます。

官能を欲し、ためにカラカラに乾いたのどをおビールなどでうるおし、まずはタコの吸盤をちゅうもんし、奥歯でこりっと噛み砕くのでございました。

酒は高知の辛口。酔鯨。

「そんなん噛んだらあかんて、わややになってしまうやろ」
という声に振り向きましたが、だれもおりません。ふたたび酒をふくむと
「うち、肥えたやろ、ここにもおにくついてしもうて、触っとおみ、なぁこえたやろ」
どうやら雨の夜の幻聴のようでありました。
「いけずせんと、なぁはよ、なぁはよやってぇな。へびの生殺しはかんにん、かんにんぇ」

幻聴を肴に、ツメをつよめに頼んだ穴子寿司をゆっくりと味わうのでございました。