2017
04.10

雨でございました。
神戸のホテルで、十傳スクールの講義までの時間を、雨にけぶる街並みを眺めておりました。
窓の下は三宮の駅。みんな霞んでおります。

小雨と霧雨の微妙な降りかた…あの夜の出来事を想い出させるのでございます。
こんな羽毛のような雨の日でありました。
もっとも夜で、夜の光は雨に吸われ墨をながしたような暗さでありました。
「このくらいの降りなら、わたしもいらないわ、傘」
雨に濡れる気持ちよさを彼女も知っているのか、と見下ろしたら、闇より黒い瞳孔が、まっすぐに私メにあてられておりました。

が、それはすこし前の時間のことで、部屋で音楽を共有すると怯えた小動物のように変わり、「あいあい傘しようよ」。こんどは白い傘を開くのでありました。
やがて、彼女は雨を恐れながら、その根っこのところで雨を愛する女になるだろうと予感したことでございました。

「次に逢う約束しないのね」
「したい?」
「しないと怖いから」

雨の三宮駅の構内に電車が入り停車し、また走り去るという繰り返しのけしきを、無機質に見送っているのでありました。
指先を鼻元にあてましたが、彼女の匂いはございません。

さあ、講義だ。
ルームキイがポケットにあることを確認し、カーテンを閉じるのでありました。