2018
03.15
03.15
数日もすれば、ここ、皇居の桜が満開となり、人々で、朝から夜まで、道という道は埋め尽くされるのでありましょう。
が、いまは開花を前にして静かなのであります。
再会したことがございました。
「あら」
「おやおや」
てな感じでしたか。
燃えかすのふたりでありました。
カフェで、すこしお話を。
彼女の首には、当然でありますが、むかしにかけてあげたネックレスはなく、私メももらったキーホルダーを持ち歩いてはおりませぬ。
遠回しの会話。
「すぐ分かったわ、目立つから」
「いやいや」
「何年たつ?」
「…オリンピックくらい」
やがて、デンジャラスな会話へ踏み込み、
「よかった、夕食の支度をしてきて」
「今日はこっちも時間はたっぷり」
と答えつつも、回線が通じるおののきに
「娘がいたよね」
「大学、今年から」
ここまで、ここまで。
ここから先は立ち入り禁止。
沈黙。
氷をかき混ぜるストローの音。
「花見したよな、いつだったか」
「おぼえてる。激しいことの後だったもん、グッタリだった」
息詰まる視線がスパークしましたが、聞こえなかったかのよーに、ポケットをまさぐるのであります。
満開の桜の夜に、皇居裏の土手をのぼるハイヒールからのふくらはぎの白さが、夜店のぼんぼりのよーになつかしく想いだされるのでありました。
手を伸ばせば、戻れる距離でした。
けれども、
お互いの健康を社交辞令でたたえつつ、それぞれの電車に乗るのでありました。
風が出て来たのか、車窓で、裸木が根元から揺さぶれておりました。
飲み干したペットボトルが足元に転がっているのでありました。