10.01
さだまった店がないということは、とても淋しいことであります。
モリオカに戻るたびにかよっていた飲み屋が閉鎖してから、そろそろ一年。
しかし、その店に代わる飲み屋がいまだ見つからず、まるでよそ者のように店を流浪しているわけであります。
知らない店にさまよい、しばらく水割りをかたむけていましたが、そこのマミーが、そろそろ店じまいをしながら、「お客さん、近くにイイ店があっから、行ってみねっか?」と誘われまして、ともなわれた近くの五階のバーから見下ろしたのが、この画像であります。
モリオカの大通り。
閑散としていますが、私メにはそうは思えません。
この通りを想い出のマボロシたちが行き交っているからであります。
マンガの単行本で一万冊くらいの内容の詰まっている通りなのであります。
「わだしっさ、たまに、ごごさ来て、ひとりで飲むのさ」
とマミーは店のマスターに同意をもとめるように目配せするのでございます。
「カンジ、いいえん? わだしの店よりも」
見たところマミーは、どうやら私メと同じくらいの年齢のようでありました。会話の内容からも、それは感じられ、そしてそれはマミー自身もそれを懐かしいものと受けとめたから、この店に私をいざなったのでありましょう。
思わず、
「セツコを知ってる?」
と聞きたくなりましたが、それは抑えて、薬草酒を飲むのでありました。ナニ言ってるの、知らないわよそんな人と真顔をされるのがこわかったからであります。
「アケミは?」
「クミコは?」
「ヨーコは?」
大通りを彩った女たちの名前が墓標のように浮かんでくるのでございます。
店内は不必要なくらいに暗く照明を落とし、時間をさかのぼる深海の底で、私メはゆっくりとカラダにまわってくる酔いに身をまかせるのでありました。
「…さぁてっと、帰ろっかな。だれもいね部屋さ」
内臓をとろかすようなニオイがかんじられました。
老母が待っていなかったら、どーなっていたか保証できない夜なのでありました。
…ムネン。