2012
07.29

いるようでいない。いないようでいる。
これがお腰にホクロを有しているお女性であります。

乱れた後、呼吸がととのったあたりに、お女性のお腰を撫でていた指先にふしぎな感触があり、薄い明かりをたよりに顔を近づけると、そこに意外なホクロのあることを発見したりするのであります。

この樋口可南子にも左のお腰にホクロのあることを見てとることができるのであります。

相書に曰く、「欲情強からずといえども閨巧みにて男心を乱すなり。なかんず此れ左にあればなり」

つまり、腰の左右にホクロを持つお女性は、さほどH好きではない代わり、テクニックにたけているということなのであります。とくに左のお腰にホクロのあるお女性さんは、その傾向が強いということなのであります。

しかし、経験から申しますと、ベッドだけでなく、恋愛において、男を苦しめるようであるのであります。
自分の魅力を最大限に引き立てるコツを、生得として備えているとみて間違いはありませぬ。

また、お腰の中央、つまり背中の腰椎あたりにホクロのあるお女性は、良妻賢母とか。
が、これはどーでありましょうか。

老母の母ーー私メの母方の祖母が、腰の真ん中にホクロをもっておりました。
お風呂でそのホクロを指摘いたしましたらば、
「おばぁちゃんはね、お醤油のね、かけすぎなんだおんなはん」
と母は、祖母をかばうのでありました。

祖母は夫を30代の頃に失いまして、三人の娘を育てつつも、煩悩に苦しんだようであります。

小学生の頃に、杉土手の家をひとりでたずねたことがありました。
奥の畳の座敷に、男がおりました。団扇をさかんにあおいでおりました。私メにお小遣いを渡すのであります。
しばらくしていたら、
「わがねって…!」
と祖母が男の腕を押し戻しているようなのであります。
見ますと、男の手は、私メに隠れて、祖母の着物の裾のなかにもぐりこんでいるのでありました。
「まぁんずょ、いがべじぇ。わらしゃどにはまだ分かんねって」
と、なおも手を奥に入れようとするのを、
「わがねわがね」と、裾の乱れを直しながら立ち上がるのでありました。

「それだけでいいの? お醤油」
と寿司屋でお女性にいわれたりいたします。
私メは小皿に、お醤油をかなり少なめにいれるからであります。

私メの腰にホクロはございません。
けれども、祖母の血がこれ以上、騒ぐことを無意識に恐れているのかもしれませんです。