2022
05.22

朝から雨が降り、モリオカは雨寒の日となりましたです。
と、いうことは草取り作業からの解放を意味します。なれない作業に、お腰が悲鳴を上げ、ギックリ腰寸前のところでして、起き上がる時も、腰をだましだまし、そろそろと。

そして、鑑定のお客様が3組ほど予定されておりましたから、雨に加えて、鑑定もまた、お腰の具合にはほどよいのでありました。

ふと、
「蘭丸さまは…」
頭をかすめるのでしたが、あえて、想念をねじり伏せ、鑑定の合間にむかしの雑誌を拾い読みするのでございます。

けれど、ねじり伏せた意志力のすきまから、
「なによう」
の声。
心を乱すのでございます。
あばら骨が浮き出ているだろう、かさついた青い皮膚までが脳天にひろがり、妄想という炎に油を注ぎ始めるのであります。
「いけない、いけない」
ジェンダーの蘭丸さまの、仇を見つめるよーな視線。
マスクを剥ぎとって、彼女の唇をかみ切り、その血を舌ですくいとりたい。彼女の血の味で口に中を満たしたい。
きっと、前歯を自分の血でそめた蘭丸さまは、同僚の店員に守られ、その同僚の店員は、
「そのジジイを捕まえてください!」
背後の別の男店員の犬千代に、私メは後ろ手に羽交い絞めに捕まえられたまま、警官が来るまで、蘭丸さまの名を叫ぶのでしょー。いやパトカーのなかでも。

揺らめく炎のよーな妄想に堪えられず、雨に出ましたです。
心臓がぱくぱく。助けてくれ。だれか助けてください。

するとそこに、体格の良いオバちゃんが左右に体をゆさぶりながらチャイムを押そうとしておりました。
破れたビニール傘を斜めにして、これを…と印刷物を扉ごしに私メに手渡すのでありました。
「なんですか」
意識の半分を妄想に漬けたまま、平静さを装う私メ。

「苦しい時には、勤行を唱えましょう。南無妙法蓮華経と唱えるだけで日蓮さまに救われますから」
「いや、苦しくはない」
「ええええ、苦しんでおられますよ」

宗教の勧誘員のオバちゃんは言うだけ言うと、次の家に向かうのか去っていくのでありました。

「私メは易者だ。神も仏も信じられないから占いを生業としているのだ!」
雨は降るばかりでございます。
ああ、逢いたい。
知らぬうちに、
「なんまいだぶつ」
おそろしい言葉が口からほどけているのでございました。