2022
10.20

実家の近くの森の道を、のどかに歩いていたのでした。

しばらくいたしましたら、後方から、ツッカツッカと速足が聞こえましたです。
ですから、こちらもツッカツッカ。
すると後ろはツカツカ
こちらもツカツカ。
ツツツッカ。
ツツツツツツッ。
タカタカタカ。
タッカ、タッカ。
とうとう勝てずに、追い越させました。

まだら白髪の初老の男でした。
襟足がキレイにカットされておりました。
さては、きのう、床屋に行ったなぁ。
突如として残忍な気持ちになりまして、ふたたび、ツカツカツカ。煽ることに決めたのでした。

白い襟足ごと、白刃で、首を切り落としたら、どんなに気持ちが良かろう、などと、血潮が噴き出すさまを想像し、カッカッカッ。

定年退職したてらしく、まだまだ体力がありそーでございます。距離が開き、私メの背中は汗ばんでおりました。

うしろから襲いかかりヘッドロックしたい。
親指で喉仏をへし折ってあげたい。

カシャカシャとカメラで撮ってやりましたです。

曲がり角で、男を見失いましたです。
かなり距離ができていたのでしたが、忽然と、床屋に行った男がおりません。

まさか忍者のよーに、地面に耳を当てて、ツカツカの足音を聞くわけにもいきますまい。

と、そこにトンボが止まっておりました。
じっとこちらを見つめておるのです。

そのとき、今朝の夢を思い出したのです。
死んだ父や祖母や叔父叔母たちが庭で宴会をしている夢でした。
みんな楽しそうに笑っているのですが、声は聞こえず、無音の宴会でした。

「そーいえば、今日から法事が続くんだっけ」
来た道を引き返したのであります。
ツッカツッカと。