2022
09.22

ただ、ひたむきに赤とんぼが交尾をしているのでありました。
羽根に触れましたが、逃げませぬ。
気づかないと言い換えたほうが正解でしょう。

モリオカの大型スーパーマーケットのパーキングなのでありました。
仕方ないので、
「よろしくやってくださいまし」
と、ふたたび店内にはいるのでした。

「!」
店内を目的もなく彷徨っていると、似たようなことがあったかな、と記憶が頭をかすめましたのでございます。
自分のことではございません。
「そうだ、映画だ、あの映画だ」

立川米軍基地で働いている主人公の青春映画でした。
主演は、黒沢年男。
ジュンという弟分がいて、そのジュンが、黒沢年男の情婦でホステスの原知佐子とアパートで何かの拍子でデキてしまうのでした。
そこに黒沢年男が帰宅し、現場を目撃。
黒沢年男が、しゃがれた声で、
「風邪…ひくなよ」

どこが良かったのか、中学二年の私メは、この映画にひどく感動しまして、リバイバルも含めますと、7回も観たのでした。
で、その場面が来ると、その都度、
「風邪…ひくなよ」
銀幕にむかい声を合わせたのでありました。

いそいでクルマに戻りました。
そのセリフを投げかけるために。
黒沢年男は、映画ではボンバージャケットの襟を立てておりましたから、私メはピンクの麻のシャツの襟を立てました。

でも、赤トンボはもういないのでした。
「風邪…ひくなよ」
モリオカは秋の気配が色濃いのでありました。
蘭丸さまに逢いたくなりました。