2023
08.28

じつに快適な日々であります。
5日間をかけて実家のすみずみまで整理整頓、掃除をいたしまして、その屋敷にひとりで生活する。
食事を用意する手間もはぶかれ、
「自由」
があるばかりであります。

夫を亡くしたお女性の気持ちとは、こーいうものかと得難い体験をしているのであります。

淋しくなるかな?
いえいえ、ぜんぜんそんなことはありませんでした。

門扉に鍵をかけ、エアコンを快適な室温に設定し、TVも見ず、好きな時間に好きなものを食う。
遠慮して使わなかった部屋のじゅうたんに横たわって昼寝をする。
空がかきくもり、やがて雨の音。

すべて自分の時間なのであります。

廊下と階段の多い家にしたいと設計屋に依頼し、その通りに仕上がった家をめぐるのはやや疲れますが、
「これでイイのだ」
なのでございます。

お女性を引きずり込んでは…などと思うかもしれませんが、そして、以前は自分でもそー思いましたが、いえいえ、そんな面倒なことをする気持ちは、まったくございません。…いまのところは。

さーて、草刈りでも始めることに致します。

2023
08.27

いつのまにかラーメン屋の前に来ていました。
開放感と後ろめたさの混じったモリオカでの出来事に、精神が疲れていたのかもしれません。

ためらうこともなく、ごく自然にガラス戸をあけました。
「お一人さまはカウンターでお願いします」
少し奥の席に着席いたしました。

蘭丸さま…。

調理場や、洗い場、そしてレジをそれとなくうかがいましたが、ジェンダーの蘭丸さまの姿はありませんでした。

最後に見たのはいつでしたっけ。
やや薄汚れた白の調理服。いやそれよりもオッパイが大きくなっていたことに驚いたものです。
なによぅ、となじるよーにすぼめた目には、愛情のひとかけらもなく、迷惑そーな雰囲気だけしかありませんでした。
なので遠慮をしていたのであります。
でも、老母を追放しよーという残酷の前に、私メは怖いものなどなにもないのでございます。

どこまでも私メを拒否するならば、こっちにだって考えがございます。
素っ裸にひんむいて、蘭丸さまは、じつは男なのだということを衆目に晒すことだって厭いませぬ。

が、冷風麵の皿の紅ショウガのかすを口に入れ終わっても蘭丸さまの姿はないのでありました。

「ここで働いていた…」
自然に声が出ました。
「眉の先が二股に分かれていた…」
そこまで言ったら、店のオヤジが、
「ああ、いないよ。辞めたよ」

そしたら若い店員が、
「八幡町あたりで働いてるよ、飲み屋で」
変な歪みが口元にはかれておりました。

八幡町は色街であります。
いまでこそ清潔になったといえども色街の名残は色濃く残る町。

ぶらぶらと八幡町に足をのばしましたです。
いかがわしい店が軒を連ねております。

ヤバイ客に何をされているのか。
急に夜の暑さが、心臓をとらえ、息苦しくなるのでした。
朝まで、この一画でたたずんていたら、もしかしたら逢えるのではないか。
逢ったら、もう離すものか。
実家の屋敷にとじこめて、肌が赤くただれるまでタワシで洗ってやろう。

汗がしたたり、夜の始まった八幡町の路面に黒くしたたり落ちるのでありました。

2023
08.26

心がなごむお女性の住職でございました。
もう、それだけで、
「満足、満足」
なのでありました。

6月から毎月、法事が続き、いまのところ、今回が最後の法事。

しかし、汗との勝負。
どんなに滅却しても、汗が背中を流れっぱなしなのでございます。

きよらかなお女性住職の、あまいお経に、ついうとうとしてしまったりも致します。
獄神得奇の方位の副作用として、身体の疲労の消耗が著しいということがございます。
汗の流れるまま、つかのまの夢を見たりも致しました。

この住職、かなりの美貌でございます。
愛想も良いので、ついお布施を多めにしてしまう危険がございます。
「ボロ寺なので、古い掛け軸代が捻出できなくて」
なるほど、掛け軸のある場所に掛け軸がなく、掛け軸のとおり、壁が日に焼け残っていたりしまして、千円を箱に納めてしまうのでありました。

このあと、炎天下の墓地にむかい、墓参りと相成ったのでありました。

法事が終われば、また明日から佼成会員の処分をしなければなりませぬ。
「自宅に帰るって言ってらっけよ」
妹からの連絡でございます。
「わがね、わがね、流刑地をはやく決めねば」

あれ、
「ずいぶんと目が見える…!」
4月にほとんど盲人状態であった左目で、ちいさな文字が読めるのであります。
お女性住職の首の付け根に隠れていたホクロさえも。

獄神得奇の方位作用は、さらに冴えていることを実感したのでございます。