2022
01.25

いずれ、この日の来ることは知っておりました。
なにごとも、始まりがあれば終わりがあるのであります。
「この人とは二年の寿命だな」
名刺交換をして、相手の顔を見て、最初に思うことは、どのぐらいの期間、その人と親しくしていられるかなのであります。
お女性とも、一週間で散ってしまう関係なのか、一か月か、それとも三年なのか、10年も続くのか。
反射的に覚悟みたいなものを決めてしまう自分がおりますです。

相手が、職業とか、学歴みたいなもので装っていれば、その関係は短く、素のままでいれば、関係が長続きすることも経験上なんとなく分かっておるのであります。

が、相手がジェンダーの場合はどうか。

そーです。
今朝、いそいそと、ジェンダーの蘭丸さまの勤務しているコンビニに向かったのであります。
ところが、蘭丸さまの姿がないのであります。

物陰から、私メを監視していることが、いくたびかございましたので、剣道でいうムカデ足にて店内を隈なく探しましたけれど、蘭丸さまのお姿が見えません。
どころか、気配というか、匂いというか、そーいものが感じられず、ただ空虚がそこにあるばかり。

もしか、トイレから出てくるのではないか。
そして、
「なによう」
と軽蔑の眼差しを私メにあててくれるのではないか。
ああ、あの冷たい眼付き。氷のように愛を拒絶する薄い唇。午前中のうちに、うっすらと青々と髭が伸び始める頬。
カサついた顔に無理して引いた青いアイライン。
が、その一縷の望みもむなしいのでありました。

かなしくて、かなしくて、神庭山に登りました。
雪で凍てついた小径にすべり、いくども転倒しそうになりましたです。
そして、リンゴ畑の向こうに展開するモリオカの街に向かって、
「……」
叫びたいのに声が出ないのであります。
いっぱいいっぱい絶叫したい色々があるのに、何も声に出ないのでありました。

私メしか、蘭丸さまの理解者はいないはずであります。
いちども会話をしたことはありませんし、むしろ蘭丸さまは私メの熱い視線を、
「ウザイんだよぅ」
拒否していることは知ってはおりましたけれど、やがては大地震などの天災のときには、私メの胸に飛び込むしかないことも無意識で分かっていたはずであります。
ほんとうは、葡萄の種より小さい乳首をなぶられ、私メの手のひらに包まれながら、ツクシのようなペニスから、
「はやく楽になってしまいなよ」
とうながされるままに射精したかったに相違ないのであります。

ちいさなモリオカの街のどこかに蘭丸さまがいるのでしょーか。

蘭丸さまを探し求める日々がはじまったのでしょーか。

どこに消えたのだ蘭丸。
どこまで苦しめたら気が済むのだ蘭丸。

私メは、靴に雪がはいるのも構わず、リンゴ畑を駆け降りるのでありました。
ホント―は駆け降りはいたしませんでしたけれど。

2022
01.24

「やはり降ったか…」
モリオカの実家は雪の中に埋まっておりました。
昨年末に、ロードヒーティングを備えましたから、門から玄関までは、嘘のように雪はございません。
が、私メの書斎からの小径は、ごらんのとおり雪に閉ざされておるのでありました。

さらにガレージに積もった雪は股まででございます。
実家に到着してから、その雪かきに時間と体力を費やしておりました。

方位は最悪でありましたから、
「こんなものだろう」
とは諦めておりましたが。

ガレージの前には、跳ね上げ式の柵がございまして、キチンと雪を払わないと、上手く作動しないのでございます。
さらに、どうにか車の出入りが可能になったと思ったら、クルマが自動的に電気系統を遮断していたのであります。まぁ、それはどうにかクリア。
お寺に、本堂の修理代という名目のお布施を頼まれておりまして、そのお寺までの道が、轍で酷いことになっておりました。

大波にもまれる小舟のように、クルマが左右に揺れるのでございます。
そしたら、ふたたび電気系統がいちぶストップ。
勝手に危険を感知したのであります。

コンビニ前で、クルマをなだめて、ふたたび機嫌を直してくれたのですが、
「あんまり利巧すぎるクルマもわがんでね」
と老母。

そのまま自宅に戻ろうとしましたら、
「カワトクに行きてぇ」
助手席のお方が申されるのであります。
カワトクというのはモリオカの最大のデパートであります。
「なじょして」
「んだって、最近は家の中ばかりに居てたおん。やっぱりカワトクだぁ」

市内は除雪がなされてクルマも臍を曲げることなくカワトクにたどり着くことが出来ましたです。

「これじゃ、書斎の前の雪掻きは明日になるな」
これは、すなわち、蘭丸さまに逢うのも明日、ということに通じるのであります。

蘭丸に行くには、老母に知られないよーに、書斎から出入りしているためでございます。

凶方位、凶方位でございますです。

2022
01.23

偽ピザを作りました。
外は霧のような雨が降り、こういう夜は雪より寒いのであります。

お女性の肌のぬくもりか、温かな食い物を渇望する夜でございます。

で、買い物に行く気にもなれず、卵3個で偽ピザをこしらえたのでありました。
卵をかき混ぜ、電子レンジでほくほくにしたジャガイモとチーズを乗せ、バジルを散らしまして完成であります。
所要時間5分。
丸くしなければただの卵焼きかもしれませんが、丸くしただけでピザの雰囲気。
ピザより美味しいかもしれませんです。

ご飯に乗せれば、卵丼とピザの両方を楽しめるという寸法なのであります。

純文学よりエロ小説の方が楽しいのと似ております。
反対の例として、こんな実話がございます。
学生の頃から小説家を目指していたお女性が、なかなかチャンスに恵まれず、それでもデパートでパートをしつつ、小説を書き続けておりました。
占ったところ、たしかに才能があり、やがては名を成すであろう生年月日。
六壬神課という、過去現在未来が瞭然として浮き上がる占いを用いたところ、やはり結果は吉。
が、純文学では芽が出ないという判断でございまして、
「エロ小説などは書けますか」
「楽しそう」
というところでエロ雑誌の佳作に入選。
が、現在、着地したのはエンターテインメントの小説。しかも映画化もされているのであります。

世の中は、どこに開運の扉が隠されているか分からないものであります。
急がば回れという言葉もございます。

偽物なのかホンモノなのか。それだって不確かであります。

偽ピザに舌鼓を打ちながら、そんな占いを思い出したりしたのです。
当人が、ホンモノだと思えばホンモノ。

偽だと思ってしまうから迷ったり怯えたりするのかもしれません。

しかし、まぁ、偽ピザをこしらえてみてください。
最後に強火で1分。
火を止めて蓋をして2分間放置することがポイントでございます。

きっと開運したよーな踏ん切りがつくと思いますですよ。